あかべこ日記番外編

「あかべこねえさんの独り言」の巻

平成10年12月中日の頃

1.プロローグ

 なによっ!「あかべこ」なんてダッサイ名前付けちゃって、こう見えてもあたしゃドイツ生まれのGカップ巨乳ギャルなのよ! バンバーンと突き出したこの胸見てよ、合うブラがないんだから。それに、なにこれ、フランス製のキチキチの赤いドレス、「バグスター」だって? そんなに胸を締め付けて苦しいじゃないの。おまけに薄汚れて恥ずかしいわよ、まったく。あらあら、大きなトップケース付けちゃって、GIVI? イタリア製なの? 節操がないわねえ。えっ、まだサイドにも付ける気なの? ヘッポコ? ああ、ヘプコね、同じドイツ生まれだからって、そんなの両側に付けたらせっかくの私のきれいなスタイルが台無しじゃないの! ああん、付けちゃった、重いったらありゃしない。それに、あんたが私に跨るの? 一体何キロあるのさ、あんたの体重? 95キロ!? ちょっとはダイエットしなさいよ。ウググググ・・・重い・・・。そう言う私は・・・なんだかんだで250キロオーバー・・・。ううん、しょうがないわねえ、じゃあ、行くわよ。 チョットォ! いい加減にしてよ、チョーク引きっぱなしでそんなにぶん回さないでよ。咽せちゃうじゃないの・・・。ううう、寒いわねえ。これからどこに行く気なの?長野? あらま、お寒いところに行くのね。でも、雪なんかあったら私いやよ。だって、そんなところに合うようなブーツ履いてないもの。転けたら痛いでしょ? あたし高いわよ。

 
スダジイ

2.相模川河畔にて

 私、混んだ道嫌いよ。できれば、そうね、4速ぐらいでのんびりと気楽に走りたいの。

あまり、飛ばしたくないわね、こんな狭い道じゃあ。だって、変なおじさんが白いバイクで追いかけて来るんでしょ。この前なんか3速で3000回転しか回ってないのに変なおじさんが飛んできたじゃない、ホント感じ悪いったらありゃしない。私は脚が長いのよ。ゆっくり走っているつもりでも結構スピード出てんのよね。それが短足の変なおじさんは気に入らないみたい。あら、相模川の道ね。そう言えば、この道で昔ヤマハのレイドって納車されたばかりのバイクでずっこけて救急車で運ばれたのよね、おじさん? おじさんってば、私に跨ってるあんたのことよ、今でも右膝が痛むんでしょ? なによ、見ない振りして、あのときのこと思い出してるんでしょ。変なこと考えてるとまた転けるわよ。

 あら、あそこの大きな木何かしら? ちょっと、止まるわよ。んーと、何々・・・?

「諏訪神社のスダジイ」ですって? あらまあ、スダジイっておジイさんなのね。立派な体格でいらっしゃること。しかも門前にお二人で立ってらっしゃって、えっ、奥にもまだお二人? 皆さんかなりのお年でいらっしゃるのね。おやおや緑のお着物なんか着て、お洒落なこと。まあ、手触りがビロードみたい、えっ苔なの? わあー、苔とは思えない。

それにしてもすっごい枝振り。よくそんな太くて重そうな枝支えていられるものね。大したもんだ、おジイさまたち。これからもお元気でいて下さいね。・・・おじさん、写真撮ったの? じゃあ、行くわよ。おジイさまたち、また春になったら会いに来るわね。


スダジイの手触り

3.藤野の山奥にて

 相模川の河畔道路って気持ちいい。ほとんど車が通らないのね。4速でのんびり走るってちょうどいいのよね。無理もしないし、かったるくもない。さてと、相模湖の方に行くの? 結構うねうねするのよね、この道。それはそうと、私お腹空いちゃったんだけど。どこかでご飯にしてくんない? おじさん? あら、道志道に入っちゃったの? この道ガスレストランなんか無いはずよ。ああん、もう、大丈夫なの? 今日は日曜日よ。

あったあ・・・けどお休みなのね、今日は。コンニチはじゃなくてキョウは休みのところが多いのよ、田舎の方は。・・・おじさん、なんか私の上でモゾモゾしてるけど、何なのよ。・・・えーっ、トイレに行きたいって? だったら、その辺でしなさいよ。えっ、おっきい方? あれま・・・。とにかく早くスタンド見つけてよね。

甲州街道に入ったのに、なかなか見つかんない。

あったー! お腹空いたー!お兄さん、おいしい方のガスいっぱい入れてね。

このおじさんトイレだって、どこ? ああ、洗車機の裏? 紙あるのかしら・・・?


井戸のサイカチ

ふーっ、お腹いっぱい! 20リッターも飲んじゃった。お勘定はスッキリした顔で出てきたおじさんが払うからよろしくね。さてと、じゃあ行きますか。

 何だか山の中に入って行くみたいね。狭くてくねくね曲がっていて大柄な私にはちょっと辛いわ。ここ? なあに、あの字。「軍刀利神社?」「ぐんだりじんじゃ」って読むの? 普通じゃ読めないわよね。で、その小川の横にこじんまりと佇んでいるのはどちら様? 「井戸のサイカチ」あら、サイカチジイ様ですか。ちっちゃくなっちゃっても結構お年なのよねえ。一応天然記念物にもなっていることだし、元気出しておくんなさいよ。おや、まだ奥に行く気なの、おじさん? やけに急な坂道なのよね、でも頑張っちゃうもんワタシ。何だか足下がざくざくいってるけど、何かしら・・・? 霜柱!? 寒いはずね。 一生懸命地球を持ち上げている霜柱さん、ご苦労様。

うわー、おっきな木! なんの木? 桂の木!? 「軍刀利神社の大桂」だって、太い幹が2本そびえてる周りを沢山の細い幹が束になって囲っているのね。なんだか桂の木って一本の大木というより、十把一絡げの大木って感じ。でも、そばで見るとすごいんだ。桂の木のそばには必ずせせらぎがあるけれど、せせらぎがあるところに桂の木が育つのかしら。それだけ水を沢山必要とする木なのね。今は葉を落として素っ裸だけれど、少し前には紅葉した葉をつけてたのよね。その頃お会いしたかったけれど、また来年新緑の頃の艶姿見に来るし、紅葉の頃にも会いに来るわね。・・・何か書いてある・・・この桂の木は縁結びの神様だって・・・だったら、このおじさんに良い縁結んであげてよ。何度も来てるんだから、それくらいの御利益あげてもいいんじゃないこと? 46にもなってまだ独り者で、ワタシみたいなバイクにばかり熱上げてんだから、困ったものよ全く。じゃ、よろしくね。

 

軍太利神社の大桂

4.上野原小学校の校庭にて

 なあに? まだ、どこかに寄る気なの? 上野原小学校? あら、大きな木。でも、こっち側は殆どモルタル詰めね。なんだか、巨木の銅像みたい。えっ、ちゃんと正面から見てくれですって? どっちが正面なのよ。日の当たる方、南側ということね。ホント、ちゃんと巨木してるぅ。ケヤキのおじいさんなのね。でも、後ろ半分枯れて無いから、なんだか薄っぺらい感じ。確かに正面から見ると横幅があって迫力あるガタイだけどね。小学校の校庭にずーっと居て、昔から子供達の育っていくのを見てきたんだね。その子供が大きくなって卒業して巣立っていく。幾人もの、幾代もの人間の命の移り変わりを見続けてきたケヤキのおじいさんもまだまだ生き続けてもらわないとね。今は冬になって葉を落としてるけれど、春には新しい芽吹きとともに、新入生を迎えるのね。

・・・頑張ってね、ケヤキおじいさん! さあ、おじさん頑張って次行こう!

上野原のケヤキ

5.笹子峠にて

 ねえ、このまま高速道路に入るのいやよ。だって、上野原からだとトンネルばかりじゃん。排気ガスが溜まってるから煙くて咽せて苦しいから下の道で行こうよ。笹子トンネルなんて最悪なんだから。・・・なによ、おじさん、ラーメン屋の前に止めちゃって。

あら、昼食? ごゆっくりどうぞ。

・・・まずいラーメンだったようで、顔に書いてあるわよ。

じゃあ、行きますか、笹子峠越え。「天城越え」なら歌にもなるけど、「笹子越え」って「ササゴゴエ」だから、発音が汚いし、言いにくいわね。「べべパパ」も書くのは良いけど、みんな呼び難そうよ。それに、能登の方言では「せっくすおじさん」って意味だそうじゃない。やだぁー、きゃはははは・・・!!

 笹子峠の道って誰も通らないから気持ちいい。トンネルは排ガスが充満してるからとても入る気にならないけれど、みんな我慢強いのか、この道を知らないのか、よくまあ中で繋がっていられるものね。あら、おじさんこんな峠の上まで来て止めるの?

・・・うーん、なになに、「矢立の杉」ですって? また、大きな木に会いに行くのね。そんな細い山道を? どれくらいの距離があるの? すぐそこ? ホント、すぐそこにあった。でも、巨大ってほどじゃない。いわれは昔の武者が出陣にあたってこの杉に矢をうち立てたことから「矢立の杉」と呼ばれてきたんですって。高さは20mちょっとだけど、中が空洞になっていて、潜って見上げると空が見えちゃうんですってよ。でも、この杉の根元がスカスカでよく立ってられるものね。そのうち倒れるんじゃないかしらね。それでも、しっかり葉を繁らせているから、まだまだ元気なんだ。

じゃあ、頑張ってね、おスギさん。また、来るから・・。

 で、おじさん、そろそろ先を急がないと、昼過ぎでも陽の傾くのは早いんじゃないの?

おや、勝沼から高速に乗っちゃいますか? よっしゃあ、じゃあカッ飛ぶわよぉ!

日影のトチ

6.須玉の山奥にて

 高速道路でも山道でもワタシはスイスイ走れるのよ。それだけの力と性能を持ち合わせてるってわけ。でも、30・タンクバッグに、50・トップケース、それに40・パニアケースを両サイドにつけて全部で160・じゃない。一体何を入れてるのさ! 邪魔になって思い切り飛ばせないじゃない。思い切って倒し込めないじゃない。おまけに95キロのオジサン! バイクの身にもなってよね。 双葉でまた休憩? トイレ? おっきい方? さっき行ったばかりじゃなかった? 頻尿症ってのはあるけど、頻糞症ってのはあるのかしらね?? どう? すっきりした? じゃあ、もう一息行きますか。

 須玉で降りて、ほんの2,3キロで根古屋神社ってところに着いちゃった。ええーっ!これがケヤキなの?? なんだかほとんどブリキで覆われていて、さながらサイボーグツリーって感じ。ここまでして生かされる木も可哀相ね。延命装置つけられて辛うじて生きながらえてるような・・・。それに、木肌も苔がびっしりで岩肌とたいして変わらないみたいね。あら、おじさん、私を入れ込んで写真撮ったの? ここに来た証拠として?一体どっちが好きなの、私と木と。どっちが大事なの私と木と? この質問女に言われると厭でしょ? よく言うのよね人間の女って、「私と仕事とどっちが大事なの?」「ね、ホントに愛してる?」「どれくらい愛してるの?」「証拠見せて!」 実証主義者なんだ。現実主義者なんだ。常に確認したいんだ、今の自分の立場を、自分の存在を。でも、おじさん、私は何も言いません。何も求めません。貴方の思うまま好きなように動きます。走ります。曲がります。止まります。でも、お願いだからオイルチェックだけはいつも忘れないでね。私なぜかオイルを良く食うのよね。この前だって久しぶりにオイル窓見たら全然なかったから泡食って500mlも足したでしょ? ガソリンだけじゃ走らないのよワタシ。オイルという潤滑剤が無ければ、人間関係もギクシャクしちゃうでしょ? バイクも自然も人間の心のオイルなのよね。なんて、ブツブツ言ってたらまた、山奥まで来たわねぇ。「日景のトチノキ」っていうのあの大きな木? あらまあご立派。周りの木がみんな小さく見えちゃう。ねえねえ、そばまで行って見ましょうよ。こりゃまた田圃の畦道じゃない。道なんか無いじゃない。・・・近くで見るとまあおっきぃこと。枝振りもなかなか姿良くまとまっているわね。葉っぱの無い大木って飾りの無い肉体って感じ。そのものの本質が見えてすごく感銘を受けるわ。時々グロテスクなのもあるけど・・・。

 あら、ワンちゃん、どこから来たの? 野良犬なの? おっきな首輪してるわね。なあに、このおじさんの臭いかいで、見た目はごっついけど優しいおじさんよ。大のネコ好き、イヌ好き、動物好きの変なおじさんなのよ・・・ありゃ! 鉄砲持ったおじさんがこっち見てる。あんた猟犬なの? 猟師のおじさん!このおじさん人間よ!撃っちゃだめよ!ほら、ちゃんと二本足で立って眼鏡かけてるでしょ! こんな熊いないでしょ!

おじさんも危なかったわねぇ、これが草むらの中でモゾモゾしてたら、熊かイノシシに間違えられて鉄砲で撃たれてたわよ。遠目で見たら大して変わらないんだから・・・。

 

玉城ケヤキ

7.佐久の王城公園にて

 なんだかひたすら走り続けて来たから疲れちゃった。でも、もう4時なんだからすぐに日が暮れちゃうわよ。でも行かねばならぬ王城へ? 何言ってんのよ。急いでいるくせになんで途中あんなにトイレばかり行くのよ!しかも大きい方ばっかり。2時間おきに行ってるんじゃなくて? えっ、行きすぎてお尻から血が出てます? それは痔ってこと?

あの「ち」に点々の「ぢ」で、字からして痛そうなヤツ。しかも下痢で下してるんじゃなくて、毎回元気な正常なブツを出して血を出してるの? お気の毒様。要は食べ過ぎなのよ。だから出る量も多い。違う?

 ほら、王城公園に着いたわよ。・・わっ!!これまた立派な大木。

「王城のケヤキ」って、綺麗な姿してる。形がいい。高台にそびえ立っていて、すごくシンボリックな感じ。しかも背景に浅間山があって絵になる巨木ね。裸でこれだけ姿が綺麗なのだから、春の新緑、秋の紅葉の衣装を纏った姿を見てみたいわよね。「王城の欅」というより「王様の欅」という風格を感じる。また、会いに来なくっちゃ、じゃあ、またね王様!



8.帰路

 まあ、しかし、よくもまあこれだけの木を一気に回ったものね。

「諏訪神社のスダジイ」「井戸のサイカチ」「軍刀利神社のカツラ」「上野原のケヤキ」「笹子矢立のスギ」「根古屋神社のケヤキ」「日影のトチノキ」「王城のケヤキ」

それぞれ、巨木あり、古木あり、奇木ありで、なかなか味のある木ばかりだった。国や市町村の天然記念物になっている木があれば、名もなく密かに佇んでいる木もある。どっちにしても、千年近く生きてきた木ばかりなのだから、それなりの生き抜いてきた知恵を持っていたのね。なのに、人間が勝手に「保護」「保存」という名目でいろんな手を加えるものだから、本来自然の木が持っている生命力を損ねているみたい。神社や寺の神木とされている木は、あちこち弄られて辛うじて生きながらえているし、山の大木は周りの木達に守られて大きく生きている感じがする。森には森の自然の知恵を持って生きている。山には山の知恵がある。本来人間は一切立ち入らなかった筈なのに、人間が入り込んで人間のエゴを押し付けることで、自然を破壊してきている。「保護」や「保存」とはあくまでも人間主体のエゴの押しつけであり、自然の木にとって決して有り難い物ではない。人間は自然界の頂点にいるのではない。進化の頂点にいると勘違いしている。結局人間は自分たちのエゴに押しつぶされ、「滅び」に向かって進んでいるとしか思えない。人間の文明は「進化」ではなく、「生命の退化」ではないか。あら、ワタシ偉そうなこと言っちゃったかしら。ああ、それにしてもこの渋滞イヤねぇ。

「やいっ! てめえら、いい加減にしやがれってんだ!」

やだぁ、ワタシ男みたいな口きいちゃった。・・えっ? ワタシって男

だったの?あんらぁ、ごめんあそばせ・・・。


戻る 次へ 友人からの寄稿トップへ トップへ